~地元の農業をより詳しく知っていくための用語解説シリーズをお届けします~
都市農業は、販路がかなり多様化しています。
しかし、数十年前は、多くの農家さんが市場出荷をメインとしていました。多摩市でも、市場出荷をメインの販路にしている農家さんが今もいます。
ただ、傾向としては、市場出荷は減少しています。それはなぜなのか。また、その減少とともに登場した「少量多品目」という農業スタイルについて解説していきます。
なぜ市場出荷は減ったのか?
市場出荷が減った原因の一番大きなものは、取引価格です。
相場によって価格が大きく変わる
市場は相場の上がり下がりがかなり激しいです。
相場が高いときはいいのですが、せっかくがんばって育てた作物が二束三文になってしまった、という例は枚挙にいとまがありません。
1回の発注量の増大
さらに、最近はスーパーマーケット・チェーンが大型化し、1回で発注される量が以前より大きくなっています。
なので、畑がさほど広くない都市農家が市場へ農産物を持ち込んでも、なかなか良い条件で取引してもらえないという最近の事情もあります。
売値は後で知らされる
しかも、市場出荷の特徴として、出してみないと売り値が分からないということがあります。
市場は需要と供給を調整する場所なので、供給が多ければ価格が下がります。しかし、日々収穫され量が変わるのが農産物というものの性質なので、供給量は事前には分からず、おのずと価格は事後的に知らされることになるのです。
経営を安定化させる観点からも、種まきの時点で、売り値がまったく予測できないのは困ります。
別の売り方があるのではないか?
そこで都市農家は気づきます。市場に出さなくても、足元に大きなマーケットがあるじゃないか。より良い価格で買ってもらえるし、売上も計算しやすくなるのではないか。
ざっくりと言えばそういう理由から、10~20年くらい前に「直売スタイル」が広がりました。
直売スタイルが登場、「少量多品目」栽培へ
具体的には、農家さん自身の庭先で売るパターンや、複数の農家共同で販売を行うパターン(多摩市では聖蹟桜ヶ丘駅近くの『いきいき市』が有名)、地元スーパーの地場野菜コーナーに納入するパターンなどがあります。
こうした販路では、ひとつの野菜がたくさん売れるわけではありません。品目を多く用意した方が、売上が上がりやすくなります。
「ジャガイモだけじゃなくて、ニンジンはないの?」と消費者の声を聞けば、ニンジンも作ろうかな、となりますね。そうして、消費者のニーズにこたえる形で、都市農家は「少量多品目」の生産にだんだんと移行してきたのです。
現在では、直売所の店頭に行くと、珍しい野菜に出会えることも少なくありません。少量多品目生産は、そんな楽しみも、私たち消費者に与えてくれます。
少量多品目栽培のデメリット
しかしながら、少量多品目にもデメリットがあります。
- 品目が多ければ多いほど、栽培管理も出荷調整もたいへんになる。
- 品目ごとに必要な機械は異なるが、1品目あたりの生産量が少ないので必要な投資ができず、なかなか機械化できない。
- 収穫の時期がかぶってしまうと作業が追いつかず、すべてを出荷することができなくなることがある。(とくに成長が早い夏野菜)
- ●●農園といえばコレ、という特徴を打ち出しにくい。
総じて、少量多品目は、効率がよくないスタイルなのです。ただし、売り値は高くなる可能性があります。
自分に合った販路を選ぶ
冒頭、市場出荷の農家さんもあると書きました。
すべての農家さんが少量多品目にならないのは、やはり非効率な側面があるからで、市場出荷もうまくやればそれなりに高い価格で取引されることがあります。どちらが優れているということではありません。
このように、農家さんはそれぞれ自分に合ったスタイルで販路を選択しているのです。
(Y.H.)